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たくみの営業暴露日記?(2)
飛び込み開始してから10日経過した。 (一体、その後はどうするんだ?) そのように思うようになった矢先、上司の勝野より次の指令が出た。 「アンケートは…100枚超えたな。じゃぁ取りあえずアンケートを取った先になじみツールでも配っておくか」 なじみツール。 「取りあえずは、と。まぁ全体運ものでも配っておけばいいかな」 早速、ツール作成に取りかかる。 実にこの打ち出し作業だけで、3時間を要した。 <発見> (さ〜て、アンケート取った先にツール配るぞ…あれ???) 早速1件目のツールを配ろうとした時、ある事に気付いた。 (山田…さん??これ…どこの誰だっけ???) 人間の記憶能力とはそんなに強いものではない。 ツールを配りはじめる。 「…どちらさん?うちは結構です」 そう、覚えていないのは自分だけではなく、相手も同じ事だったのである。 (うわ…今まで取ったアンケート、全て無駄になる…のか…) 10日間、それはもう、ガムシャラに動いていた。 それなのに… 積み木は積み上げるのは非常に時間がかかり難しいものだが、崩すのは一瞬で非常に容易。ちょっとした挫折感を思わずにはいられなかった。 (まぁ…無駄になるかどうかは、全て配ってから考えれば…いいか) 上司勝野によるスパルタといって過言ではない指導。 4件程、同じように「本当にアンケート、この人書いてくれたの?」というような冷たい対応を経て、5件目。ようやくアンケートの成果(?)たるものが感じられる出来事がおきた。 「あぁ、こないだの人ね、今日は何のよう?ふ〜ん、自分の全体運か。ありがとね。じゃ」 一見何でもないようなやりとりだが、加藤にとっては非常に嬉しかった。 (よかった、ちゃんと覚えている人もいるんだ) また、少しだけ前進した気がした。 その日は結局、50件程度しか回る事が出来なかった。 会社への帰社は19;00を過ぎてからだった。 『加藤のヤツ、事故ったか???』 当時、加藤は携帯電話もポケットベルも持っておらず、連絡は加藤が会社に公衆電話から電話する以外取りようがなかった。加藤からの連絡がない為、何かおきたのでは?と、後少しで警察に連絡を、と思っていた…との事。 そんな事になっているとは知らず、いつも通りに帰社した矢先、凄い剣幕にて怒られた。 その時以来、加藤は19:00になったら一度帰ってくる事を義務づけられた。 「ただいま戻りました」 今日の出来事を、勝野に話した。 「ははは、だろうな。なじみツールを配る事によって、見込みになるかどうかのチェックが出来るんだよ。今回配れた所はさらなる見込みになるし、配れなかった所はまぁ見込み薄だな」 なる程、とやけに納得した。 「後、人を覚えていないというのは、関連づけて覚えていないからだな。アンケート取った時に、一言でもメモしておけば覚えている事が多くなるぞ。例えば女性の人だったら、小泉今日子似の美人だった…とかな(笑)」 なる程、とまた納得した。 その日より、加藤はアンケートを取った先に事細かく、どんな家だったか、何をしゃべったか、どのような人だったかを書くようになった。 <1ヶ月の成果> 働くようになって、1ヶ月になろうとしていた。 …当然、これにて保険の契約が取れる程甘くはなく、締切日になっても保険契約に結びつくような話は1件もなかった。 ゼロからのスタートで、第一基盤を使わずに契約を取る事。 同期入社の他の人達は、最初に取った1件にさらにプラス1件(知人からの契約との事を知ったのは後の事)、計2件を取っていた。 ゼロ。 当初から分かっていた事ではあるが、さすがにこの結果により加藤は酷く劣等感に苛まれた。 (俺は落ちこぼれ…なのか…) 締めきり日にて、他の人達は皆追い込みにて動き回っている。 加藤は、というと、そんな追い込み先等ある訳もなく、通常通りの飛び込み&ツール配りに勤しんでいた。自分だけ、取り残されているような気を引きずったまま。 夜。 (あ〜ぁ、何か説教でもされるのかな…) 憂鬱な気持ちにて、食事へいく。 「加藤…」 結果がゼロだという事、それは上司の勝野にとっての成績にもなる。 「ごめん!俺が悪かった!!」 非常に驚きである。 「俺がもっと上手く指導出来ていればお前程頑張って契約が取れないなんて事はまずなかったのに…ホント申し訳ない。他の同僚達が保険取れてるのに、お前が取れない、辛いよな、劣等感に苛まれるよな。そんな思いをさせてしまってゴメンな。俺がもっと上手く指導出来ていれば…」 「何をおっしゃるんですか。リーダーが悪い事なんて何もないですよ。自分が基盤がゼロからスタートしたから取れないだけですよ。元々自分、口が上手い訳でもないですし、センスがある訳でもないですし。来月はもっと動きますので、これからもよろしくお願いします!」 もしかしたら、勝野の自分をやる気にさせる策略話法だったかもしれない。 が、加藤にとっては策略だろうがなんだろうが、心に響いた言葉であり、今後続くエピソードの中でも非常に印象に残った出来事の一つとなった。 (リーダーだって、自分の成績により上からドヤされている筈なのに。自分を叱ってもおかしくない状態の筈なのに。自分を気遣ってくれている。リーダーに少しでも恩返しをしなくては、頑張らなくては) 本来の保険の仕事の動機とは大きく掛け離れてはいるが、この日より、加藤は「自分を思ってくれる上司の為にも」という気持ちにて、よりいっそう仕事に励むようになった。 加藤はいい上司に恵まれた。 <挿話> 勝野はいい上司だった、これは確かにその通りでしょう。 が…自分は一切ナシ。そりゃそうだ、勝野は飛び込みした経験はなかった訳で(笑) あくまでも「自分にとって」はいい上司ではあった勝野、果たして万人受けするか?というと…どうなんでしょうな。
<なじみ>
連休等あり、実質的には2週間が経過したことになる。
加藤の仕事は…ただ黙々とアンケートを取る事。
実に10日の間に140枚ものアンケートが集まった。
それは、会社のコンピューターにより打ち出す事が出来る「今日の運勢」や「姓名判断」等の紙の事である。
パソコン経験も何もない加藤にとって、ツールを出すというだけでも非常に大変な作業である。しかも、アンケート分全て…140件。
そして、打ち出したツール全てに対応する名前を記入。
加藤が全ての作業を終え、営業所を出る時、時刻は14:00を回っていた。
加藤も例に違わず、ツールの名前と顔が一致すると思われる家は実に3割程度しかなかった。
(まぁ、3割というのは加藤自身の能力が人よりも劣るものと思われるが)
一度いった家、アンケートを書いてくれた家。
いけば思い出すであろう…
…という楽観的思いは、1件目にてはやくも崩れた。
(!!!)
よく考えれば当然の事ではあるが、加藤は非常にダメージを受けた。
朝の朝礼が終わったら即飛び込み、帰ってくるのは20時過ぎ。
毎日深夜、次の日付けになってからの帰宅。
この苦労がきっと形になる日を信じ、動いてきた。
例にあげるならば、昔のスポコン(巨人の星等)のようなスパルタ指導のように。。
朝から晩まで仕事漬け。
人とは疲れきった状態になると、考える事すらしなくなる…まさしく加藤はその状態であり、幸か不幸か、悲観的な事を考える前に取りあえず動いてそれから考えるというパターンが身体に染み付きかけていた。
それだけで、またやり続けようという気力が出てきた。
元々ツールを配りはじめたのが2時過ぎだった事、飛び込みと違い、1件1件地図と照らし合わせながら訪問する事による時間のロスが原因といえる。
実は10日の間に、加藤は22:00まで飛び込みをしていた事があった。
物事に熱中したら時間を忘れてしまうという性格もあり、加藤自身そんな時間になっているとは帰社した時に初めて気付いたのだが、営業所ではちょっとした騒ぎになっていた。
まぁ、当然といえば当然の事なのだが…
「おぅ、お疲れ。どうだった、今日は」
「いえ、実は…」
いわば、パチンコで例えると、チャッカーに球が入ってそこからリーチになるかならないか、と。アンケートはチャッカーに球が入る事で、なじみツールを配れた所は、リーチになった所だよ、と。そこからスーパーリーチに発展するかしないかでまた選別され、スーパーリーチであたるかどうかという最終選別があるよ、と。
間違った解釈かもしれないが、加藤はそのように解釈し、その後も変わる事はなかった。
同時に、相手に覚えてもらうには、ちょっとした工夫があればいいな、と考えた。
このアドバイスは、今後も大きく加藤の活動の基礎になる事になる。
当然の事ながら、保険の仕事には締めきりがある。
加藤がこの1ヶ月にてしてきた事、飛び込みアンケート、そしてツールを配る。
実にこれだけである。
当然といえば当然なのだが、1ヶ月という期間では到底無理な事である、少なくとも入社1ヶ月目の大卒上がりには。
最後の説得に向かう、とでもいえば分かりやすいか。
上司の勝野に誘われ、夕食にいく事になった。
(うわ、来た)
勝野の給料は、部下の契約件数によって決まっているといって過言ではないからだ。
成績について、同僚と引き合いに出されどやされる…加藤は覚悟していた。
が、次の言葉は加藤の予想とは全く違うモノであった。
(え??)
意味が分からず、加藤は勝野が自分のサイフからお金を盗んで遣ったのか?等、突拍子のない事ばかり頭に浮かんだ。怒られると思っていたのに、謝られるとは。
勝野が話を続ける。
部下を手なずける手段の一つだったかもしれない。
これだけは、間違いのない事実であろう。
が、ふと冷静に考えると…これ程野放し状態にする人も珍しいでしょうね。
通常、トレーナーは案外つきっきりで最初は飛び込みやら職域活動までついてきて、手本を見せたりします。
(後に聞いてビックリした記憶があります)
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