4月になり、新しい営業部長がやってきた。
小橋『明日から新しい営業部長が見えるからくれぐれも遅刻しないようにね。
なんていっても、今度の営業部長、厳しいお方みたいだから』
その言葉に服従するかのようにつぎの朝は誰も遅刻するものはいなかった。
皆少し緊張気味に、毎朝恒例のラジオ体操を終了して席についた。
久しぶりの緊張感が、部屋全体に流れる。
ラジオ体操の時、あさっての方向を見ていた私も恐る恐る前を見た。
『・・・』
(まぁまぁじゃん)
ホッと胸をなでおろして、横の神田さんに視線を送る。
彼女も『ぼちぼちかな・・・』と目で合図してくれた。
顔がパスされれば、早く声が聞きたいものである。
彼の自己紹介ビラを横の席に回しながら、気がせいだ。
小刻みのいいリズムで、ビラを読み始めた。
『・・・』
(えっと、なになに...?)
(ふ〜ん、趣味はバイク。えっ、若い頃はバンドやってたの??)
ビラを読み終わると同じくらいに彼は喋りだした。
『私の名前は、横田範己(のりみ)だ!
まぁ経歴を見てもらえば分かる通り、俺のいた拠点は全て全国レベルになっている。
俺のいう通りにすれば、成功するから、みんな俺についてくる様に!
文句をいう奴は俺はいらん!
ちなみにビラを見て分かる通り、ノリミのノリは模範の範、ノリミのミは己だ。
俺が模範だ、わかったか!』
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し〜〜〜ん
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・・・冗談抜きに、彼の一分ちょっとの演説で空気が重くなった。
さ、最初にこんな事いうなんて・・・
『では、みんなにも自己紹介をしてもらおうか』
自信満々の笑みをうかべてそういい、そして静かに座った。
どこからこの自信がくるのであろうか?
恐らくみんながそう思ったに違いない。
その後、一人ずつ自己紹介をして、朝の朝礼が終わった。
・・・己が模範、か・・・
な、なんかとんでもない人が営業部長になった、なぁ...
なんとなくやりきれない雰囲気に苛まれながら、私は会社から出ていった。
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